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「おい、聞いてんのか、女」
大戦争のことを思い返していたエイブは、ルゥイの声で我に返った。ターバンの縁で黒く光る瞳を彼に向ける。
「私はエイブだ。大きな声で女と呼ぶな。大体、見ればわかるだろう。察しろ。女一人旅では危ないから、こうして変装しているというのに」
「名乗らねえのが悪いんだろうが。俺のことは、言わなくても知ってたんだろ。元指名手配犯、極悪人のルゥイ様だ」
欠伸をしながらルゥイが言う。その姿は、極悪人にはとても見えなかった。性悪人ぐらいには見えるかもしれない。あるいは赤い猿とも言える。赤い目付きの悪い蛇でもいいと彼女は思った。
「しゃあねえからもう一度言ってやるけど、俺は基本同じことは言わねえからな。次から気をつけろよ」
「ああ、それで?」
「…お前、あれだな。態度がでけえな」
「そうか? 貴様程じゃない。気にするな」
「そりゃどうも、ってなると思うか、そう言われて」
「何を怒ってる。落ち着け。私が何かしたか?」
「何か腹立つなぁ」と苛々しているルゥイを、エイブは不思議そうに見つめていた。
深夜の訪れを告げる夜啼鳥の地を這うか細い声が聞こえてきた。ルゥイはそれで少し落ち着いたのか、目は据わったままだったが大きく息を吐いた。
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