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2<旅人の休み場>
翌朝、空を飛ぶ朝啼鳥のけたたましい声でエイブは目を覚ました。灰色の岩山に朝日の白い光が降り注いでいる。何度か瞬きをしてからゆっくりと立ち上がり身体を伸ばす。燻っている薪に砂をかけ、火を消した。
ルゥイはまだ鼾を掻いている。揺り起こそうとして、女性に触れられると発疹することを思い出した。腰に差した剣を抜き鞘の部分で彼の身体を突く。んがっと一際大きな鼾を放ってから彼は目を覚ました。上半身を起こす。赤い髪の右耳の上の部分が外側に跳ねている。眠そうにがしがしと頭を掻いた後でも、その部分はやはり外側に跳ねたままだった。だらしのない奴だとエイブは呆れる。
「もう朝かよ、面倒くせえ」
何が面倒臭いのか。聞こうとしてエイブは思い留まった。彼とまともに取り合っていれば時間はいくらあっても足りない。今は先を急ぎたかった。
「〈白銀の幻想者〉の元へはここからどうやって向かうんだ?」
エイブの言葉にルゥイは片眉を持ち上げて彼女を見た。右頬に赤い岩筋の痕がついている。どこまでも赤い奴だとエイブは思う。
「何だ、お前イザヌのことも知ってるのか」
「当然だろう。最も高潔な魔導士と言われる有名人じゃないか。今は隠居されたと聞いているが、確か貴様の師匠なのだろう?」
エイブの興奮した様子にルゥイは露骨に顔を顰めた。やれやれと肩を竦めている。その動作は彼女を馬鹿にしているようでもあった。動作一つで人を嫌な気分にさせる奴だと思ったが、エイブは言わなかった。言えば「気にいらねえなら口添えはなしで」とでも言い出しかねないと思ったからだ。じっと耐える。
ルゥイは大きな溜息をつき「期待するなよ」と小さく呟いた。何の期待だろうか。エイブは疑問を浮かべる。口添えのことだろうか。それは困ると、彼女は不安になる。
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