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よっこいせと彼は立ち上がった。次の瞬間エイブを置き去りにするような速さで歩き始めた。岩山の急な斜面を事も無げにひょいひょいと登っていく。重さを感じさせない動きだ。
「待て、置いて行く気か」
「急いでんだろ。ならこの速度について来いよ。日が暮れちまう」
「今明けたばかりなのに!」
二人の背丈はそれほど変わらない。見た目にも一歩の幅が大きく違うようには感じない。だが軽く歩いているという雰囲気で進むルゥイについていくのに、エイブは小走りしなければならなかった。
「お前さ」
「お前ではない、エイブだ」
「お前さ」ルゥイは表情を変えず、言い直しもしない。
「俺に口添えしてほしいって言ってる割には、真面目に入隊試験受けるつもりなのか?」
「私は絶対王国親衛隊に入りたいのだ。卑怯と言われようが口添えはしてもらう」
「違ぇよ。試験なんか素っ飛ばして入隊できるように口添えしろって発想にはならないわけ?」
その手があったかと衝撃を受けたような表情のエイブを見て、ルゥイは馬鹿にしたように鼻で笑った。
「何だ、ただのバカか。それとも天然なのか?」
「私は生まれつき正直だ!」
「はい、天然バカ決定」
怒るエイブの伸ばした手をルゥイは身軽に避けた。エイブの身のこなしも軽いが彼を捕まえることはできない。
そうして喧嘩するように時折言葉を交わしながら二人は岩山を越え、〈スウォ・トルモーチェ(剣の三山脈)〉の第一山脈〈尖〉と第二山脈〈刃〉の間にある谷を移動した。
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