1〈食彩の市場〉

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 彼は赤い一角牛の背に乗り、空に架かった大きな虹を眺めていた。  七色の光の上を頭が大きく手足の短い小鬼達が懸命に走っている。虹が消える前に渡りきらなければ肉に飢えた双頭の狼に喰われてしまうからだ。群れた狼が地上で小鬼達が空から降ってくるのを、今か今かと舌舐めずりしながら待っている。  果てしなく続く瑠璃色の砂漠を歩く赤い一角牛の歩みは、鈍い。だが驚くほど体力があって、急がせなければ丸一日でも歩いていられるのだった。  自分と同じ髪と目の色をしているところを気に入ってもいた。急ぎ旅でもなく、その牛の広い背中に寝転がりながら彼は悠々と世界を眺めて移動していた。  遠くで狼の啼く声が聞こえた。小鬼達を食べ損ねたのだろう。腹を空かせた狼達を思うと、彼の腹もそれに応じるように大きく鳴った。  手元に置いてあったほとんど彼の背ほどもある長剣を手に取った。その剣は漆黒の柄に臙脂色の宝石が七つ埋め込まれている。赤銅でできた鍔に、鞘は柄と同様真っ黒だった。だから鞘に収まったその長剣は全身が黒い。  鳴り続ける腹を擦り、彼は牛の行く先を見つめた。空を舞う瑠璃色の砂の向こうに小さな町が見えた。陽炎かと見間違えたが本物の町のようだった。  このまま町へ行き食べる物を調達しよう。彼はそう決めると再び牛の背に横になり、大きな鼾を掻き始めた。
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