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どうしたものかとエイブは困惑した。彼を助け、恩を売ることで計画を成功させようと思っていたが、恩を売るどころかありがた迷惑とまで言われてしまい彼女は途方に暮れた。
とにかく話だけでも聞いてもらおうと口を開きかけた瞬間、突然ルゥイが倒れた。何事かと近寄ると一角牛の啼き声かと思うほどぐぐぐと籠った大きな腹の音が鳴り響いた。
「ああ、腹減った」
そう呟くとルゥイは気を失ったようだった。腹の音だけが威勢よく吼えている。
エイブはほくそ笑み、岩山の麓に落ちていた枯れ木を集めて打石で火を起こした。近くをうろついていた岩ウサギを二頭投石で仕留め、それを小刀で捌いて木の枝を刺し火に当てた。肉が焦げ、脂が滴る。火花の爆ぜる音と共に香ばしい匂いが漂ってきた。エイブは左腰に提げている袋の中から塩の入った小袋を取り出し肉にそれを振りかける。
食べ頃になり丁度エイブが肉を頬張ろうとした時、ルゥイが勢いよく上半身を跳ね起こした。鼻が香りを手繰り寄せ、視線がエイブの持っている肉へと辿り着く。目は見開かれ口からだらしなく涎が垂れていた。腹の音が哀れなほど鳴り続けている。
「欲しいのか?」
ルゥイが思い切り頷くのを見てエイブは少し気分を良くした。
「私に協力してくれるなら、やろう」
また頷く。エイブは笑いながら肉を渡した。獣のような勢いでルゥイはそれを貪っている。
赤い火がぱちぱちと音をたて火の粉を生んでいる。火の粉は風に乗り空高く舞い上がった。少し前に日は沈み、辺りは暗闇に包まれている。夜でも昼中太陽の熱を浴びた岩肌はほんのりと温かい。
眼下には〈カイド〉の街明かりが見えた。市場は店仕舞いしているはずだが食堂はまだ開いているのだろう。
それを見つめるエイブの黒い瞳がターバンの下でかすかに炎の光を帯びた。
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