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牛革の水袋をもらいルゥイは美味そうにそれを飲み干した。岩ウサギ一頭半を食べ終えようやく満足そうに腹を叩いている。彼の唇は肉の脂で光っていた。
「それで? お前は俺に何を協力してほしいんだ?」
エイブは少し驚いた。食い物欲しさにその場しのぎの約束にさせられるのではと内心思っていたからだ。
会って短い間だが彼女の中で目の前の彼は短気で単細胞でいい加減な男という認識になっている。案外律儀なのだろうか。値踏みするようにルゥイの姿を上から下、また下から上へと最小限の眼球の動きで見ていった。
「協力、してくれるのか」彼女の声には疑いが混じっている。だがルゥイは気にしていない。
「しゃあねえ。飯の恩だけは、忘れないようにしてんだ。もちろん、内容にもよるぜ。人殺しとか、盗みとか、そういうことを俺はしたくねぇ」
炎に照らされたルゥイの髪と瞳は、昼間よりも朱に染まって見えた。それを横目で見ながらエイブは態度も含めてさらに彼を値踏みする。
口の悪さ。気の強さ。女性に触れることができない体質。深紅の大罪人が、偉そうなことを言う。そう心の中で罵っても、表には出さなかった。むしろ少し微笑みを浮かべている。
「そんなことじゃない。私は盗賊の類ではない。実は王国剣士を目指していて、その口添えを、貴様にしてほしいのだ」
「はあ? お前馬鹿か? 俺が指名手配されてること知ってんだろ? 口添えなんて、できるわけねえじゃねえか」
「何だ、知らないで〈カイド〉に入ったのか。図太い奴だな。貴様の手配は、先日解消された。国王が、意を変えたのだ」
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