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駅から図書館まで三十秒の道のり。乾ききった木の葉がアスファルトに爪を立て、カサついた音が騒がしい。十月の終わり、木々も風も冬支度を始めている。夕方六時を過ぎた薄暗い空は、日増しに冬の純度へと近づいていく。
図書館はこの日ついに暖房を稼働させ始めた。二枚目の自動ドアが開くと頬の強張りが一気に解け、微睡みに似た重たさが瞼を襲う。それを振り払うように足早に二階に上り、いつものように本を探し始めた。
書架の中段に絡まった視線が、前に進もうとした俺を引き戻す。急激な冬の気配のせいなのか、明朝体で書かれた「たき火の世界」というタイトルに引き寄せられたらしい。人差し指を背表紙の上に引っ掛けて本を取り出した。
世界各国のたき火の様子を写真に収めた本だった。たき火の向こう側にアンコールワットが見えたり、たき火にあたる男性が米国の国旗を背中にかけていたり、妙なお面と腰蓑をつけた半裸の人が火を囲んで踊っていたりと、それぞれの写真に特徴がある。
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