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   ある日、パパとママが死んだ。  まわりの人たちは泣いていた。 「7歳の息子を置いていくなんて」 「これから、あの子はどうなるんだ」  そう言って、まるで僕のかわりに悲しむようにポロポロ涙をながした。  でも、わからないんだ。死ぬってどういうこと?  みんなが言う天国ってどこさ。  とおい世界に行くってことかな。  僕はみんながどうして泣いているのか、わからない。  死ぬってことがどうして悲しいことなのか、僕にはわからなかった。  パパとママが死んだあと、僕はおばあちゃんの家に行った。おばあちゃんの家でごはんをたべて、ひとりで遊んで、夜になったらおばあちゃんとお風呂に入って寝た。おばあちゃんは優しいし、ちかくに川と山があるから楽しかった。あまり退屈だとはおもわなかった。パパとママが少しくらいいなくても、平気だった。  だけど、何日か経ったら退屈になってきた。すきなことをして遊べるのはうれしいけれど、やっぱりパパとママがよかった。おばあちゃんは優しくて怒らないけれど、それはときどきでもいい気がする。  おばあちゃんはすきだ。それでも、家がいい。  僕は、おばあちゃんのところへ行った。おばあちゃんは、庭で洗濯物を干していた。  柔軟剤のにおいがする。おばあちゃんの使う柔軟剤は、家の柔軟剤とはちがうにおいだった。 「ねぇ、おばあちゃん。パパとママ家にいるんでしょ? 僕、帰りたいよ」  おばあちゃんは洗濯物を干すのをやめて、こっちを向いた。 「なにを言っているんだい。お父さんとお母さんは死んだんだよ」 「知っているよ。死んで天国に行ってるんだよね。けれど、もう何日もたっているし、家に帰ってるんでしょ?」 「ちがうんだよ。お父さんとお母さんはね……」  おばあちゃんは、地面ばかり見ていた。それに、なにか言おうとしているのに、ぜんぜん言わない。僕はイヤな気持ちになった。子どもがきいたことに、大人はなんでも答えないといけないんだ。 「じゃあ、いつ天国から帰ってくるの?」 「いつって言われてもね」 「僕、家で待ってる。ひとりでもだいじょうぶだよ。だから、連れていってよ」 「それは、できないんだよ」 「どうしてだめなの?」 「ごめんね、ごめんね」  おばあちゃんは謝るばかりだった。それに、下を向いたまま動かない。こんなおばあちゃんを、今までに見たことはなかった。
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