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家についた。
玄関の鍵を開けた。ガチャリといつも聞いていた音。この音を聞くと、いつもママが玄関まで来てくれた。けれど、今はだれもいなかった。パパとママはまだ家に帰っていないらしい。
玄関で、僕はなつかしい空気をすった。芳香剤と木のにおい。ほこりっぽいけど、やっぱり家のにおいが好きだ。
それから、靴を脱いで居間へ行った。いつもパパとママと僕で、テレビを観ていた場所。みんなでご飯を食べていた場所。ゲームをしたりパズルをしたり、とにかくいろんなことをした場所。居間は僕の一番すきな場所だった。
けれど、今はとても静かで、なんだかへんな感じがする。いつもは、ママがいた。本を読んでいたり、料理していたり、あと編み物。ママは、編み物がすきだった。だから、時間があれば、一番大きなソファで座って、僕の服を編んでくれた。だいすきなママ。僕のママ。早く帰ってこないかな。
部屋は、パパとママがいなくなるまえから、なにも変わっていなかった。読みかけの本、パパの新聞。リモコンの位置や、買ったばかりのペットボトルのお水。いつもある場所にいつもあるものが置いてある。
けれど、パパとママだけがいない。まるで消えたみたいに、ふたりだけがいなかった。
「いつ帰ってくるのかな。早くいっしょに遊びたいのに」
文句を言いながらも、しばらくママのお気に入りだったソファに座っていた。
コチコチ。時計の針がうごく。
身体の向きを変えて座りなおしてみたり、ときおり歌ってみたり、窓から見える景色を眺めてみたり、退屈を減らしていった。
けれど、やっぱり退屈はなくならない。きっとパパとママがいないせいだ。
「まったく、どこに行ったのかなぁ、もう」
家へ帰ってきてから、だいぶん時間が過ぎたような気がする。時計の長い針が何度も回った。喉が渇いたので、冷蔵庫を開けた。ペットボトルの水はぜんぜん冷たくなかった。しかたないので、それを飲んだ。生ぬるい水は、すこしだけへんな味がした。
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