hot !

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 僕がアキノと出会ったのは大学2年生のときだった。もともと学科がちがうので顔も知らなかったのだが、僕がバイトをしていた喫茶店にアキノがやってきて、同じ大学の同じ学年と知ったことで会話が弾んだ。のちに彼女もこの喫茶店でバイトを始め、僕たちはどちらからともなく付き合い始めた。それはすごく自然なことのように思えた。まるでイチゴと生クリームの出会いみたいに。時々、ホール担当の彼女の休憩中にサンドイッチやクリームパスタを作って持っていくと、すごくおいしそうに食べていたことをよく憶えている。  卒業してからも付き合いは続いた。アキノは病院の事務方に、僕は食品メーカーの研究職に就いた。社会人1年生としてお互いの門出を祝った。正直なところ、このタイミングで別れようと切り出されるのではないかとひやひやした。社会に出れば人付き合いも広がるだろうし、僕と違って向こうはしょせん学生時代の思い出作り程度に考えていたかもしれないからだ。それに、アキノはかわいい。あまり愛嬌のあるタイプではないが、かえってあのいじらしさに心をつかまれる。僕みたいに生っちろいやつにはもったいないくらいなのだ。  僕らは時間を見つけてちょくちょく会った。仕事帰りに飲みに行くこともあったし、お互い休みの日はショッピングや映画にも出かけた。でも1番多かったのは、二人のうちどちらかが気になっている飲食店に足を運ぶことだ。僕はカフェをめぐるのが好きで、アキノは隠れ家的な店をめぐるのが好きだった。おいしいものを食べているときのアキノは本当に幸せそうで、いくらでも見ていられた。
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