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「『あなたは僕の太陽です。いつも笑っていて、周りには沢山の人がいて……。僕のような小さい人間には無理かもしれませんが、良かったらお付き合いしてほしいです』……って、いや、お前誰だよっつーね」
もはやギャルになってしまったのではないか、と妹の美野里を冷たい目線で眺めながら兄の五十鈴は思う。美野里は手にもった手紙──内容からしてラブレターだと五十鈴は思う──を高く上げている。
「ねえお兄ちゃん、聞いてんの? ねえってばあ」
昔から兄に対して構ってちゃんオーラが酷かった美野里は、今でも何かと兄に構ってほしいという態度を見せる。
「聞いてない」
妹への対応が面倒くさくなった五十鈴は、適当な相槌をうつのすらやめる。
「ひっどおい。ねえ、可愛い可愛い妹が構ってほしいんだよ? もう少し聞く気持とうよお」
そんな言葉を無視し、五十鈴は手に持っているスマホを見る。真面目な幼馴染みからメールが届いている。五十鈴はメールが苦手であり嫌いだ。
「どうしたんだよ」
五十鈴がメール嫌いという事を知っているはずの幼馴染み、隼人に電話をかける。三コールも鳴らずに隼人が電話を取ったということはどうでもいいので本題に移る。
『メールしてくれればいいのに』
「俺はメールが嫌いだ」
知っているはずなのに無視して日頃からメールメールとうるさい隼人の言葉を遮る。真面目なせいで頑固になってしまったのか、それかただのメール好きなのか。
「そんなことより、俺がメールを見ないと知って送ってきたのか? 急用だったら今すぐ話せ」
この前、美野里にメールが送られてくる度に電話をしているという事を話したら、通話料がもったいないとしかめっ面をされた事を五十鈴は思い出した。ちらりと美野里の方を見ると、案の定ぎりぎりと五十鈴の事──というかスマホ──を睨んでいた。
「早く話してくれねえか。そろそろ美野里に俺のスマホが壊されそうだ」
隼人はああ、と言った後何も言わない。どうしたんだと五十鈴が問う直前に、やっぱりなんでもない、と隼人は電話を切った。メールも見なくていいから、とも言って。
「メールなんて最初っから見ねえよ」
五十鈴は通話終了と書かれたスマホを睨みながら、同時に隼人はどうしたんだとも心配した。昔から、なんでも話してくれてたくせに。初恋の人も、悩みごとも。
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