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「なあ、やっぱ気になるんだけど。どうしたらいいと思う、ギャル」
「ええ、ひっどおい。ギャルだなんて。ギャルじゃありませんよお」
美野里は顔をむすっとさせる。五十鈴はそんなことよりも早く本題に入ってほしいと思いながら美野里に謝る。失言だった。
「まあ、謝ってくれるんならいいよお。で、何だっけ。えと、隼人くんのこと?」
美野里は一度も隼人のことを隼人にいだとか隼人お兄ちゃんなどと呼んだことはない。本人いわく、“私のお兄ちゃんは一人だけだもん”らしい。そんな下らないことを思い出しながら、五十鈴はああ、とスマホを取った。
「あいつ、何かとメール送ってくんだよ。一回も見てねえけど」
暗証番号を打ち込み、ロックを外す。ホーム画面にあるメールアプリには、99+という数がくっついていた。
「うわあ、ほんとに開いてないっぽいね」
公式とかのもあるだろうけど、と美野里はスマホを奪い取りメールアプリを開く。
「ていうか、なんでお兄ちゃんそんなにメールが嫌いな訳? 手紙は平気なくせにい」
そのせいで連絡が面倒くさいやら通話料がもったいないやら言っている美野里は隼人からのメールを開く。
「なんて書いてあんだ? 読んでくれ、見るのは嫌だ」
メールは嫌いだがやはり気になる。そんな我が儘を美野里は渋々聞く。
「えっとお、『やっと読んでくれたな』だってえ」
は、と五十鈴は間抜けな声を出す。それだけなのか、本当に?
「待ってえ、下にもまだある。『お前には俺の恋の相談にのってほしいんだ。妹ちゃんがどうせ声に出して読んでるんだろうけど、機会があったら学校でもいいから』、だってさあ。本当、隼人くんってなんでもお見通しって感じ。お兄ちゃんのことだけだけどお」
また下らないことをあいつは、と五十鈴は顔をしかめる。その前に送られてきている大分古いメールはもう面倒くさいので、美野里からパッとスマホを取りなるべく画面を見ないようにしてすぐにホーム画面に戻る。
「ほんとくっだらねえ。そんなことだったら学校で言えばよかったのによ」
五十鈴は、クラスメイトが好きな人からメールで恋の相談を受けたと言っていたことを思い出した。同時に、その時からメールが嫌いになったことも。
「くっそ……」
失恋は、本人の口から「他に好きな人が居る」と言われる方がいい。
五十鈴は複雑な気持ちを胸に、目に涙を溜めた。
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