0人が本棚に入れています
本棚に追加
▽
ナタリアは、飛翔する龍を見た。
天高く、眩しい太陽の下。
それよりも眩しい、二色の焔を翼にして。
全く、高レベルな戦闘だった。
自分には、サポートすることなどできないとわかる。
だから、故に。
彼女は空に向かって叫ぶ。
「頑張れ!ユウキ君!!」
続いたスズリ。傷ついた肩を抑えながら、
「頑張れユウキ!!」
機関銃を杖代わりにして起き上がり、コトハ。
「頑張れユウキ!!」
▽
「頑張って......!!」
胸の前で両手を組み、合わせたヒツジは祈る。
その横に立つ、少年は笑顔。
どこか先程までとは違う、以前は時折しか見せなかった、影のない笑み。
じりじりと後退していく焔龍に、手のひらをかざし、叫ぶ。
「頑張れ!ユウキ!!」
▽
司令室で、ただ一心に叫び続ける者達。
『頑張れ!』と諏訪。
『頑張って!』包帯を頭に巻いたシダユリが叫ぶ。
『頑張れ!』頬に貼った大きなガーゼのオガユウ。
『頑張れ!』小さい身体から響すメカニック。
『頑張って!』涙で頬を濡らす桜。
『頑張れェ!!』いい声低い声、ぽてと。
『頑張れ』
『頑張れ!』
『頑張れ!』
『頑張って』
ユウキの耳には心には、彼らの言葉がずっと、確かに響いている。
▽
「負けるかァァァァァァッッ!!!!!!」
白炎が、その勢いを増す。
僅かに黒を押し返し、ユウキははち切れんばかりに叫ぶ。
「推進器、全、開ッ!!!!」
双対の炎翼が、ブレる。
空気を打つことで飛行する翼はしかし、それ自体が推進器となって、加速。加速。
黒を押す。どんどん、どんどん押し込んでいく。
「くぅぅぅぅっっ!!!」
伊吹が吠えるが、しかしもう遅い。
超速で突撃したユウキの拳が、伊吹の腹を撃ち抜いた。
「......がッ!」
散る炎。吹き飛ぶ伊吹。
光の奔流を逆に飛び、どこまでも高く、高く浮く。
そしてようやく勢いが止まったのは、地上五百メートル。太陽の元。
浮かぶ、すっかり輝きを失った鉄塊を抱きしめ、彼は思考する。
──俺は、間違ったのか。
体の向きを仰向けに変えると、いつの間にか、彼より高所にユウキが飛んでいた。
「......〈炸裂〉!!」
短い言葉が、この戦いに、彼の長い計画にピリオドを打つ。
最初のコメントを投稿しよう!