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ユウキは身体から熱を発する。故にこの光柱にも抵抗があった。
しかしミコトは違う。いくら不死身の能力と言っても、『一瞬で身体が蒸発するような技』を喰らい続けると、言霊が一瞬で切れ──
「──早く行けッ!ユウキ!!」
ミコトが吠えた。
「主人公はね、どんなピンチもチャンスに変えるんだ!この絶体絶命の状況を、僕が認めたヒーローが覆す姿!見せてくれよ、ユウキ!」
覆剣が悲鳴をあげる。ミコトの姿勢がガクンと一段下がった。
「行けッ!!!」
言葉が背中を、ドンと押した。
ユウキは光柱の中を喘息で走り抜ける。
▽
残されたミコトは、自嘲的に笑った。
「どんなピンチもチャンスに......ねぇ」
勢いに負けて、思わず片膝をついた。
「よくあるやつじゃないか。『主人公の仲間が死んで、それが勝利への鍵となる』って奴だよ」
ミコトは己の脚を見る。
飛んできた破片で切った脚の傷は、『劇的に回避』されていない。
言霊欠乏。
ユウキにはばれなかったが、喉元までヒビ割れが進行していた。
「損な役回りだよね。主人公になれず、ヒーローになれず、ただ本物を輝かすための触媒になるんだ」
バシン。覆剣に小さなヒビが入る。
「でも、これが一番いい終わり方な気がするよ。『名もないエキストラ』が、『主人公のために死んでいく仲間』になれたんだ。最高じゃないか!」
ミコトは笑う。覆剣はなお泣き叫ぶ。
「僕の人生は悲劇的じゃあなかった!けれども否劇的だった!つまらない、つまらないこんな人生を、ヒーローのために死ねる!脇役の、最高の幸せが──」
──覆剣のヒビが、刀身一面にまで広がった。
あと十数秒も持たないようだ。
「主人公になれなかった男の、最初で最後の晴れ舞台だ!僕は!僕は!──」
高らかに、天へ笑うミコトはしかし。
脳裏に浮かんだ。知らない少女。
「──死にたく、ないなぁ」
一筋涙が溢れた。
自分でもわからない。この涙はなんなのか。
辛い。悲しい。虚しい。死にたくない。
一瞬にして決壊したダムのように溢れ出した感情と涙が、一瞬、ほんの一瞬だけ、覆剣を押し戻した。
砕ける剣。
無数の欠片となって散る。
影になっていた視界が、光に埋め尽くされ、白。
涙を瞬間に蒸発させた光は、ミコトの身体を焼く。
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