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「逸れろーーーッッ!!!!」
刹那。ミコトが塵と化すコンマ数秒前。
光の中に飛び込んできた一人の少女が、天に手を翳し叫ぶ。
すると、真っ直ぐ地面と垂直へ降っていた光柱が、地面に触れる直前、ミコトと少女に触れる直前、その軌道を曲げ、周囲の地面を浅く削る。
軌道が〈逸れた〉。
逸らすことによってできた光のドームの中、ヘナと座り込んだミコトは驚愕に目を見開き言う。
「君は......渡邊ヒツジ!?」
ガスマスクはつけていない。
ストレートの長髪とスカートが暴風に揺れ、引き締められた小さな口が、開く。
「黒い女の人が来て、『あんたも能力者なら助けなさい!』って言われたの!」
「黒い......ラストか」
鏡を割られてからいないとは思っていたが。
「貴方を助けるの、間に合ってよかった!」
その叫びに、しかしミコトは返す。
「どうして僕のところへ来た!僕が〈不死身〉なことは知っているだろう!?」
その返しに、しかし無理やり笑いながら、彼女は返し返す。
「わかっていたよ!でも『もしかしたら』って思うと、体が動いちゃうものなんだ!」
いつかの自分の台詞を、そのまま返され黙るミコト。
「それに、私が助けたかったのは貴方なの!」
「......僕を?どうして」
「貴方は私の首輪爆弾を、偽物だろうと思いながらも身を呈して外してくれた!私は、それがとても嬉しかった!」
「そ、それは僕だったら爆発しても無事だから──」
「違うの!私は、私の為に、『もしかしたら』を考えて動いてくれたことが嬉しかったの!『動いてくれた』ことが、本当に嬉しかった!それだけじゃない。瞬間移動で逃げようとした時、貴方は私の腕も掴んでくれた!敵だった私を放って置かずに、一緒に逃げようとしてくれた!二人で何処かへ飛ばされた時も、私の体を案じておんぶして歩いてくれた!」
ミコトは何も言わずに、いや何も言えずに彼女の顔を見つめる。
その視線に彼女も合わせ、放出され続ける光柱を〈逸らし〉ながら、
「貴方は、私のヒーローなの!琴浦君!」
彼の人生が『劇的に』幕を下すことはなかった。
彼の、『否『劇的』な人生を『劇的』に終わらせる』という、彼の否『劇的』な人生における最大の『劇的』なシーンは、『一人の少女がその否『劇的』を否定した』ことで否『劇的』となる。
いや、ただ彼は今気付いただけなのだ。
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