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「寒くないの?」
雪が舞うなか、真剣な顔でカメラを構える彼女に俺は尋ねた。スッとカメラを下ろした瞳がこちらを向く。しかし、視線が合ったのは一瞬で、彼女はまたレンズを覗いてしまった。そして、そのままの状態で先ほどの問いかけに淡々と応える。
「手や頬は痛いよ」
たしかに、指先や頬は冷気で赤くなっている。しもやけができそうだ。しっかり厚着をしていても、空気に振れる部分は寒さをしのげない。それでも、彼女は撮影を止めようとはしない。こちらのほうが寒さに負けてしまいそうだ。息を吐くたびに唇が冷たくなる。
「日を改めないか?」
少し身震いをしながら再び声をかける。しかし、その提案は、ためらうことなく跳ね除けられた。
「この瞬間は、今しか撮れないのよ」
「ずいぶんと刹那的なんだな」
わずかに切羽詰まったような彼女の声に、ドキリとした。なんだか落ち着かない気持ちになって、軽くおどけてみせる。
「じゃあ、今この瞬間だけのお前も撮ってやろっか?」
ニッと口角を上げながら、俺はすばやくカメラを構えた。ファインダー越しに見ると、彼女がようやくこちらを向いた。驚いてから、少し拗ねるような表情をしている。
「バカじゃないの?」
そう言って、目を細めて俯く彼女に向かってシャッターを切る。すると、先ほどよりも頬を赤くした彼女に上目遣いで睨まれた。
「ははっ」
軽く笑った自分の顔も、熱くなっていくのを感じた。カメラを外して空を見上げ、熱を冷ますように息を吐く。いまだ雪がちらつき、空気は冷たい。
無言になった二人の吐息が、同じ白さで混ざり合っては空気に消えていくのをしばらく見つめた。
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