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「なに今の。無許可であんなもの持ち込んでわざわざパフォーマンスとか、どんだけ承認欲求強いんだよ。ってミーア、あんたまんざらでもなさそうだね。相変わらず年代物のカメラなんてぶら下げちゃって」
舞台に降りていく階段の最上段で、カメラを握った水原ミーアは今しがたファインダーに収めた彼方たちの写真を眺めている。黒の跳ねっけのあるショートヘアーに細めのチノパンとTシャツ。マニッシュと言うよりボーイッシュで少しあどけなさが残る目鼻立ち。
「うん、なんか新鮮じゃない?もっとこう原始的な衝動に駆られているっていうか。あと生の楽器の響き?それも生身の人間が出すあの感じとか」
15歳の誕生日の夜にパパに連れていってもらったジャズの生演奏が聞けるレストラン。
期待して行ってみたら演奏していたのはAIが制御しているヒューマノイドだった。20-21世紀に活躍した有名なジャズプレイヤーの膨大なデータを学習したヒューマノイドの演奏は限りなく人間の演奏に近いんだけど、どこまで行っても交わらない人間とAIの平行線のようなものを感じさせた。円の正方形化のような不毛な作業。
そして今耳にした彼方たちの演奏は感情の高ぶりが自然に演奏に現れていて、聞いているとこちらまでその熱量が伝わってくる人間らしい演奏だったんだな。
「あ、これじゃない?今学内の掲示板にさっきの人たちの動画が上がってるよ。なんかサークルだか同好会だかを作るからメンバー募集してるらしいよ」
端末を操作しながらクラスメートの紗希が動画のリンクを飛ばしてくれた。
動画を見ながらミーアはぽつり
「虎穴に入らずんば孤児を得ずって誰の名言だっけ?」
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