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握手を求めようかと思ったけど初対面でお互いにまだ壁があるのを感じて少し躊躇った。
「ところでテオさんは好きなバンドいる?the fijianとか聞く?前世紀だったらHero Sunとかも俺的には外せないんだよね」
「わかります!僕もfijian好きですよ!1stと2ndは傑作中の傑作ですよね!MVもかっこいいんですよ。あれベースのスパイクがディレクションしているんですよね。あ、そういえば」
好きなバンドの話で盛り上がりかけたところに水を差して申し訳なさそうな苦笑を浮かべて、テオは先ほど自分が通ってきた通路の方を指差した。
「実は入部希望の子がもう一人いて、途中まで一緒に歩いてきたんですけど話しかけづらいから先に行って様子見て来てって言われてそのまま放置して来ちゃったんですけど、あ、あそこの自販機に背をもたれかけている女の子です」
緑のパーカーにぶら下げたカメラをいじりつこちらの様子を窺いつつ、少し小柄な女の子がそこに立っていた。テオがこちらに来るように手招きをする。
それに応じて女の子は俯き加減にこちらにやって来た。
「こんにちは、君も入会希望?」
女の子とまともに話すのが久しぶりで声が浮ついてしまった。動揺をなるべく表情に出さないように努めながら話しかける。
「はい!この間の無許可ライブみて凄いなぁって感動しちゃいました。生演奏を初めて見てあんなに生き生きとしてて迫力があるのって凄いなぁって。あのっ、楽器って難しいですか?実は私楽器は何も経験なくて音楽もそんなに詳しくないんですけど、、だから教えて欲しくて」
俺は反射的に一瞬戸惑ったような表情を出してしまった、ようだ。
というのも相手の子の表情がちょっと曇って寂しそうな線を描いていたから。
自分のこういうところが本当に嫌になる。すなわち人間関係を構築していく中で、その人間が利用価値のある人間かどうかで態度が変わってしまう自分本位なこの性格。
慌てて取り繕うとしかけた次の瞬間、目の前の女の子は先ほど一瞬見せた寂しそうな表情を一蹴してさらにアグレッシブに畳み掛けてきた。
「演奏では役に立たないかもだけど私映像作れるんです!専攻も先端映像メディア学科でMVとか動画編集もお茶の子さいさい?なんです。絶対役に立ちますから!」
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