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たりもした。友人は、実に複雑そうな顔をして食っていた。
「何が使われてるんだろうな、このスープ」
僕は、そんな彼の心境に全く気付かず、さも当然そうに答える。
「ああ。分からん」
何年も、そうして通っていた。
今では僕も、ついに五十歳を迎えようとしていた。
部下も出来た、役職も付いた、家庭を持って、安定した生活があった。
しかし戦いは終わらない。さぁさぁ、お待ちかねである、僕。
営業からはすっかり外され、片道二時間の田舎の客からは解放されていた。しかし、僕の戦いは終わらない。終わることはないのだ。
ナイフとフォークの攻防戦は、飯と僕の果たし合いは、ゆるく、ゆるく、こうしてじっくり続いていた。三十年も続くか、普通。ほんの少しだけ出た腹は、きっとここの栄養分で出来ている。四十代の内から、ウォーキングを始めておいてよかったと思う。これでまだまだ、戦えるのだ。僕はまだまだ戦えたのだ。
僕は折れる気なんて、全く、さらさら、なかったのだ。
「今度の十月でさ、店を閉めるのよ。調理の免許の更新が、そこで切れるからさ。これが終わったら、老人ホームとかで調理師募集って、やってるのよね最近、ふふ。だから近所の募集見つけて、行こうと思ってんの」
すっかり白髪で薄毛になったマスターが、同じく白髪の増えた僕の前から、姿を消す日が来るとは、思い付きも、考えも、しなかった。
ある日のそのお昼時、九月。マスターはそんな事を言いながら、相変わらずケタケタと笑っていた。常連の、小太りな奥様二人と談笑しているのを聞いてしまった。この頃には店も古びて、客足は芳しくなかった。これくらいが丁度いいのだと、マスターが別の客と話していたのも知っている。だから、盗み聞きもしやすくなった。
「まぁ、年下の栄養士のお姉ちゃんと、上手くやっていけるかは別だけどねぇ。何か言われたら、うるせえって、僕言っちゃいそう。ふふふ」
僕は黙ってコーヒーを啜った。
何を言われてるのか、いや、僕は何も言われてないのだが、正直混乱していてよく分からなかった。
そんな事言ってくれるなよ、という気持ちが最初に湧いてきた。もっと喧嘩しようぜ、僕の頭の中でだけだけど。ナイフとフォークの攻防戦は、まだ決着がついてない。老人ホームだなんて、そんな寂しい事言ってく
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