移り行く色の帰結は

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移り行く色の帰結は

「なぜここがわかったの」  ファインダーから双眸を離した彼女は、不思議なものを見るような目つきで僕にふりむいた。  僕はトレンチコートの襟を隙間なく重ねてすきま風をしのぐ。  吐く息は白く、梢から散る雪も白い。夏は眩しい太陽も、今は白い光り物の薄日に変わって世界を白く染めていた。 「……なんとなく、かな? 君の癖を考えてたら、ここに着いたというか、まあ、そんな感じ」  僕は言葉を濁した。世界はこんなに白いのに、言葉の薄墨で不要な色彩を落としてしまった。 「ふーん。邪魔さえしなければ好きにすればいいと思う」  彼女はふいと顔を正面に据えて、カメラを目の高さに調整しはじめる。完全に僕への興味をうしなったのが、横顔から見て取れた。  ──待ってくれ。違うんだ。  言葉にならない本心はどんな色彩を持つ? きっと、薄墨よりも明度の落ちた黒が、季節を重ねても滞留しつづけるのだ。何度も、何度も繰り返してきた苦い色だ。  僕は、後ろ手に隠した包み紙を手前に、持ってくる。  息を吸う。  喉でつっかえた息を吐く。 「こ、れ、誕生日プレゼント。君は、いつも素手でカメラをいじるから、寒いと……思って」  一息で吐き出したつもりが、緊張に邪魔をされた。  もう彼女の顔なんて見れない。見れるわけがない。嫌な自分。矛盾だらけの鬱屈が嫌で、包み紙を握る手に力がこもる。 「置いとくから。いらなかったら捨てていいから!」  ぱっと手を離して、僕は彼女の鞄にプレゼントを置く。  僕は、うつむいてかかとを返し、彼女に背を向けて逃げ出した。  これで、彼女のまわりには白だけが残るはずだ。  不純物みたいな僕は、そもそもここにいるべきではない。  キュッと雪を踏みしめる音を追いかけるように、フラッシュの音が響いた。  フラッシュは周囲のすべてを光に染め上げる。  被写体なんて瑣末な問題なんだ。  僕が落とした不純物が、新たな光でかき消されたのなら、それ以上の幸せはない。
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