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「そんなことないよ。依里ちゃんがいるから私は心強いんだよ」
「……ホント? 嬉しいなあ。そんなこと言ってくれんの、舞ちゃんだけだよ。あたしを必要としてくれてんのも、舞ちゃんだけ」
依里ちゃんは、彼氏と別れるたびこうやって飲んで帰ってくる。一緒に住み始めてからもう何度目だろうか。彼氏をとっかえひっかえってタイプではないのだけれど、何しろ依里ちゃんはモテるのだ。けれど、告白された依里ちゃんが最後は別れを告げられるパターンが多いようだ。
いつもは黒く艶のある依里ちゃんの髪が、ボサボサになったままとさかのようになっている。私はそっと撫でつけた。
「……あたし、お母さんにもいらない子だって言われてたしさ。いっつもいっつも叱られてばっかりで。こんな風に頭撫でられたりするだけで、すぐに心持って行かれちゃうんだ。ホント、バカだよね」
依里ちゃんのお母さんは、私のお父さんと再婚した時すでにバツニだった。最初の結婚は十六歳で、その時に依里ちゃんが生まれた。若い二人はほどなくして別れ、次の結婚は二十五歳の時だったけれど、その人ともうまくいかなかったのだと依里ちゃんが教えてくれた。その離婚後から私のお父さんと結婚するまでの間は荒んだ生活を送っていて、苦しい生活に苛立つお母さんが何度も依里ちゃんに「あんたなんか産まなければよかった」と言い放ったらしい。そんな辛かった思い出は、普段はほとんど話さないけれど、時々こういう風にぽつりぽつりと漏らす。
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