恩返し

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「依里ちゃんが帰る場所、ここにあるよ。私はいつも待ってる」  そっと背中をさすった。依里ちゃんの嗚咽がわずかに激しくなったのを見ると泣いてしまいそうになるけれど、歯を食いしばってぐっとこらえる。  お父さんが再婚してから、私は依里ちゃんのお母さんとの見えない壁に悩んでいた。実のお母さんは私がまだ小さな頃にがんで亡くなっていて、もうあまり記憶にはないものの、とっても優しくて温かい人だった。でも、依里ちゃんのお母さんは私が勝手に描いていた母親像とはかけ離れていた。突き放すように自分から子どもを遠ざけ、不必要なことは話さない。それに、時々言葉を交わす時もはっきりした物言いで、全体的に苦手なタイプだった。なかなか目を見て話してくれないし、嫌われてるんだろうなって思っていたけれど、実の娘である依里ちゃんともベタベタと仲が良かったわけでもなく、つかみどころがないまま十歳の私は日々沈んでいった。  そんな私の様子に気がついた依里ちゃんが、ある夜部屋にやって来た。 「私のお母さんにいじわるとかされていない? きつい言葉投げかけられたりしていない?」  実際はいじめられているわけでもなかったけれど、萎縮しているのだとわかってくれたことが本当に嬉しかった。大好きなお父さんが他の女性に取られてしまったようで悔しかったこともあったし、家の中で急に居場所を失ってため息ばかりついていたけれど、依里ちゃんが心に寄り添ってくれたことで、ようやくお父さんの再婚を認められた気がした。
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