恩返し

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 その時をきっかけに、困ったことは依里ちゃんに相談するようになった。普通ならお母さんに相談するようなことでも、依里ちゃんは嫌な顔せずいつも応じてくれた。初潮を迎えたときも、初めてブラを買いに行くときも、買い忘れていた文房具を買う時に小さなお金をもらうのも、全部依里ちゃんがお世話をしてくれた。  その頃は、依里ちゃんがお母さんとうまく行っていないことにまるで気が付かなかった。でも、二人で住み始めて初めて介抱した時に、依里ちゃんが漏らした過去を聞いて胸が砕けそうになった。自分だって悲しくて辛かった状況で、笑顔で優しくしてくれていたなんて。あんなに側にいた私が気づかないということは、たぶん周りの誰もが気づいていないことだった。依里ちゃんは一人で悩んで苦しんで、誰にも甘えられずずっと耐えてきた。そうやって乗り越えるしか方法がなかった。どんなに嫌なことを言われても、お母さんの側にいることしか、自分を保ち続ける方法がなかったから。  だから、男の人から付き合って欲しいと言われると、すぐにいいよって言ってしまうのも仕方のないことなのかもしれないと思った。好意を寄せられると嬉しくて、でも甘えるのが下手で加減がわからず、最後は相手も負担になるほどのめり込んでしまう。何度それを繰り返しても、依里ちゃんはまた次に、よく知らないうちにどんな人でも受け入れて、そしてまた、酔っ払って帰ってくる。
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