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恩返し
玄関で、ガチャガチャと音がしている。鍵がうまくはまらないのか、何度かトライしているようだ。解除に成功して扉が開く音がしたあと、依里ちゃんが「ただいまあ」と伸ばし気味の語尾で帰宅を告げた。
「おかえり。……飲んできたんだね」
お酒が強くもないくせに、依里ちゃんは時々こうやってベロンベロンに酔うまで飲んでくることがある。しかも、仕事帰りに一人で。でも、どんなに酔っ払っても誰にも迷惑を掛けないところはすごいなって感心している。お店や家のトイレで悲惨な光景を繰り広げるようなこともしないし、誰かに付き添ってもらったり大声をあげて周りを困らせたりなんかしない。ただ、普段より少しだけお喋りにはなるけれど。
私と依里ちゃんは一緒に暮らしている。間柄は姉妹、ただし血は繋がっていない。私が十歳の時にお父さんが再婚して、その再婚相手の娘が依里ちゃんだ。十八歳のおしゃれで美人な女子高生だった。他の家庭はどうだか知らないけれど、私と依里ちゃんは血が繋がってはいなくても一緒に暮らすようになってからずっと仲良しだ。依里ちゃんは妹が欲しかったって言っていたし、私はお姉ちゃんができて嬉しかったし、仲が悪くなる要素がなかったことも大きいと思う。
大学を出て、就職すると同時に依里ちゃんがひとり暮らしを始めたから少しの間離ればなれだったけれど、私が希望する高校が実家より依里ちゃんのマンションから通う方が近いこともあって、高校入学を機にまた一緒に暮らすようになった。
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