雨男

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雨男

 俺は『雨男』だ。大事な時には必ず雨が降った。運動会、遠足はもちろん、元妻との初デートも雨、結婚式は台風が上陸し、息子が生まれた日も雨。  離婚届に判を押したのも雨だった。仕事や友人付き合いを優先してしまって家のことや育児は妻に丸投げだったから、愛想を尽かされたのだ。 「それでも、俺は復縁に向けて希望を捨ててへん」  馴染みのバーでマスター相手に俺は息巻いた。  たまの面会日に会う息子はとても楽しそうだし、息子の送り迎えの時に会う元妻も、いつも張り切ってメイクをしている。これがまた、付き合いだした頃を彷彿とさせて、ドキドキする。 「離婚して四年でしたっけ」  マスターが水割りを俺の前に置きながら言う。 「うん、息子も小六。そろそろ、パパとキャッチボール、なんて年やなくなってきたわ」  息子にグローブを買い与えたのはいいが、面会日は必ず雨。一度もキャッチボールをしていない。  ため息をつく俺にマスターが言った。 「晴れる確率の高い、『晴れの特異日』があるんです。今年だと『文化の日』の十一月三日だけですよ、週末に当たる『晴れの特異日』は」  それを聞いて、俺は決意した。     
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