192人が本棚に入れています
本棚に追加
/390ページ
☆
「いらっしゃいませ、『海猫亭』へようこそ! 3名様ですか? お好きな席にどうぞ!」
――喧騒の中でも良く通る可愛らしい声音が、ここ、港町『ポルトゥス』で一番人気の酒場、『海猫亭』のホールに響く。
カツコツとストラップシューズの軽やかな靴音を鳴らしながら、慣れた様子で3人の来店客を案内するのは、ふわふわの金髪を揺らす年若い女給。『海猫亭』の看板娘、クララである。
「それでは、ご注文がお決まりになりましたらまたお呼びくださいね」
にこりと人懐っこい笑みを浮かべ、アクアブルーの瞳を細める看板娘に、新たに店に入った新米の水夫達は思わず顔を赤らめ、あるいは相好を崩した。
立地の関係で日に焼けた水夫達がメインの客層となっている昼下がりの『海猫亭』で、店オリジナルの水兵帽とセーラー服風の制服を身に着けた彼女は、今日も体格のいい男達で賑わう酒場の店内に華を添えていた。
「クララちゃん! こっち、いつものやつ5人前ね!」
「いつものですね、かしこまりました」
「よっ! クララちゃん! 今日も可愛いねぇ!!」
「ふふっ、ありがとうございます」
「ねぇねぇクララちゃん。今日はもう仕事休んでお兄さんといいことしない?」
「もー。あんまりヘンなこと言うと店長に言いつけますよー?」
控えめな胸の前で木製のトレイを抱えつつ、客のセクハラ発言にも笑顔で対応する看板娘に、店内が温かな笑いに包まれる。
最初のコメントを投稿しよう!