新米メイド、テトラの憂鬱

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 エクエスが何気なく告げたその言葉に、ほんの少しテトラの瞳が揺れた。  「……ありがとう。君は優しいな」  「え、ううん、別に……」  笑顔と共に告げられたテトラの感謝の言葉に、エクエスは目を逸らしつつ小さく返事。  そんな彼にテトラは目を細めたまま、再び調理台に向き直った。  「……でも、いつまでもこの家に迷惑を掛ける訳にはいかないし、借りは返せる内に少しでも返しておきたいんだ」  その言葉にエクエスははっとしてテトラの方を向いた。  (お姉ちゃん……)  自分よりも背の高い……しかし決して大きくはない彼女の背中越しに、エクエスは何か言い知れない切なさを感じて、けれどその気持ちをどうすることも出来ないまま、彼は目を伏せてその場に立ち尽くすのだった。        ⭐︎  「これをお嬢ちゃんが? 美味いじゃねえか、大したもんだぜ」  「ほんと美味しいわね。すごいわテトラちゃん」  「ありがとうございます」  ほどなくして目を覚ましたパークス達と共に、テトラは朝食を()っていた。  メイドになってから身に付けた料理スキルを絶賛されて内心では少し複雑な気持ちになりながらも、もうそんな微妙な本音はおくびにも出さない。  泣く子も黙る天下の将軍だった彼女も、今はその天を突くほどのプライドを引っ込めてただのメイドの少女を演じていた。
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