招かれざる客

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       ☆  休憩後、クララが『海猫亭』のホールに戻ると、昼時の忙しさのピークを過ぎたためか、先ほどよりもだいぶ店内は落ち着いていた。  「あっ。おかえり、クララちゃん!」  「待ってました!」  「はい! ただいま戻りました」  看板娘の姿を見つけるやいなや、再び色めき立つ客達に愛想よく笑みを浮かべながら、他の店員にも挨拶して回るクララ。若くて可愛く、けれどその事を鼻に掛けたりせず、誰にでも親切で仕事熱心な彼女には、男性の客や店員のみならず、女性スタッフからも人気が高いのである。  元気いっぱいの挨拶と共に、クララがぱっと花が咲くような笑みを浮かべると、ふと、店員の中から1人、彼女の元へと足早に駆けてくる者がいた。  「クララちゃんおつかれー」  軽やかな足取りでクララの前まで歩み寄って来たのは、この地域では珍しい『羊人族』の少女、リリーである。  短めのブルネットの髪の左右から小さな羊角を覗かせつつ、グレーの瞳に横長の瞳孔を持った獣人の少女は、クララと同時期に『海猫亭』で働き始めた厨房担当のスタッフだ。  「おつかれー」  リリーと同様に少し砕けた挨拶を返したクララに、羊人族の少女は弛緩(しかん)した笑みを浮かべつつ、おどけたように言った。  「いやー、それにしてもクララちゃんはいつ見ても可愛いなー」
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