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それから何日も経ったある夜のこと。
少女は騒がしい物音に目を覚まし、ベッドから起き上がりました。
窓に手をついて下を見ると、村の大人たちが松明を片手に集まっていました。
その中には少女の両親もいました。
少女はなんだか嫌な予感がしました。
音を立てないように窓を少しだけ押し上げて聞き耳を立てると大人達の会話が聞こえてきました。
――本当だよ、見たんだ。あれは竜だよ。森から飛ぶのを俺は見たんだ。
震えながらそう騒ぎ立てるのはいつも酒屋にいるおじさんでした。
竜。その言葉に少女の心臓がどきりと音を立てました。少女は今まで一度だって銀の茨もそれに囚われた王子も、王子に恋焦がれる竜のことも誰かに話したことはありませんでした。
集まった大人達は皆どうにも半信半疑といった様子で彼の話を聞いていました。
――酔っ払って何かおかしな幻覚を見たんじゃないのか?
ひとりの青年がそう言いますが、いつも陽気な彼が顔を真っ青にして騒ぐので次第にまわりのざわめきが大きくなっていきました。
村長が皆を落ち着かせ、大きな声で言いました。
――もし本当に竜がいるのなら危険だ、村に降りてくる前にあの森を焼き払って追い出さないといけない。
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