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「お母さんは?」と彼がたずねると幼い声が「おふろー」と答えた。
さらに彼は移動して今度は大人の女性とやり取りを始めた、彼女が遙香だ。風呂場のドアを隔てているからだろう彼女の声は聞き取れないが、鬼多見の言葉から交渉が行き詰まっているのが判る。
「斉藤さん、申し訳ありません。十五分後に戌亥寺に電話をして、真藤遙香に私の後を追うように説得してください」
「私も今から向かうつもりでしたが」
「おれ独りで大丈夫です、それより後始末を遙香にして欲しいのでお願いします」
「法眼様では……」
「遙香に頼んでください!」
茂子の情報通りだ、鬼多見は父の力を頼るのを極端に嫌う。
思わず笑みがこぼれる、いかにも茂子の友人らしい。
「承りました」
恭治はスマートフォンをデスクに置いた。
おてんば娘を自分一人で助けに行くより厄介な仕事を押しつけられたのかもしれない。
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