メンインブラックなお見合い

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それから何日か過ぎたあと、仕事帰りの夕方に、駅前で待ち合わせをして映画に行った。 それだけで別れても良かったのに、どちらからともなくカフェに入ることにした。 ちょうどテラス席が空いてたから、二人で向かい合わせに座る。  注文には、司が率先して行ってくれた。何だか女扱いされているような気もするが、すっかり好意に甘えてしまっている。  図々しいところがあるのは百も承知だ。 「一応、砂糖とミルクももらってきたよ」 「あ、さんきゅーな!」  なんて気がきくやつだ。ミルクも砂糖も入れたかったけど、ぐっとこらえて、ブラックコーヒーを飲むことにした。 司も淡々とブラックを飲んでいる。 こっちは当然、か。 甘党には見えないし。 しかしそれにしても、だ。 苦い気持ちで、苦いコーヒーを口にする。 渚は、軽くため息をついた。   「……ごめん、なんか思ったほどじゃなかったな」  そう。映画は最悪だった。  前作が良すぎたので、今回も!と倍プッシュしてしまっただけに、司には申し訳ないことをしてしまった。 「いやそんな。俺も見たいって、言ったわけだし。真南のせいじゃないよ」 いつのまにか、司の口調がくだけている。 それを少し嬉しく思う自分もいた。 微笑みながら、渚は言った。 「だけど、ひどかったよな」 「うん。ひどすぎた。前作のメインキャラがあっさり死ぬなんて、おかしくない?」 「そう! そこだよ!」  思わず机を叩いて同意した。  期待はずれの映画の後だから盛り上がらないかと思ったが、無駄な時間と金を費やしたのを埋め合わせるように、ゲラゲラ笑いあった。  そして当然のように、次の約束もしてしまった。  司が何をどう考えているのかはわからない。  仮にも見合いとして出会ってしまった以上、会い続けるのは良くないということもわかっている。  それでも、会うのをやめようとは思わなかった。  ふと美恵子が言っていたことを思い出す。  あのビルで、掃除の人にまで礼を言ってくれるのは司だけだった、と。  司は明らかに他の社員とは違っていた。それ故に、同僚から疎まれていた、とも。  だからたまに美恵子たちの控え室に呼んでやると、喜んでついてきたらしい。  そして美恵子たちのどうでもいい話に耳を傾け、楽しそうに笑っていたというのだ。 『そーゆー人だから、あんたにあわせようと思ったんだよ。悪いやつをひきあわせるわけないだろう?』 いやそれでも。 お見合いというのはナシだろう。 心底、そう思っているのに、次の約束をしている自分は、自分たちは一体なんなんだ。 「.....何やってるんだか、俺は」  街灯の光を睨みながらポツンと呟いた。  答える声はない。  代わりに羽虫が光に焼かれる音だけが、いやに耳に残った。
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