0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんなさい・・・・・・」
ハルはしょぼくれたようにどんどんマフラーに埋まっていった。眼鏡が曇って表情が解らなくなったところで、俺は肩をすくめた。
・・・・・・俺も人のこと、言えないんだけど。
「今年は、俺が長く居座るよ。そうすればナツが急がなくて済むし、・・・・・・お前もフユを追いかけられるじゃん。雪が溶けたら行っちまいな」
首の後ろをポリリと引っ掻くでもしないと、ばつの悪さを隠せなかった。ハルが眉を困らせて俺を見上げてくるからだ。その表情に溜まらなくなって、「あんだよ、」とつい悪態をついた。
「・・・・・・でも、私と冬くんはいたちごっこなの。冬くんは秋ちゃんと一緒にいることが多くて、私とはあまり一緒にいてくれないから・・・・・・」
「そらぁ寒い季節同士、仲もいいさ」
反らした視線を戻して盗み見ると、ハルはまたしょぼくれていた。きゅっとカメラを抱きしめる姿がいじらしくて、思わず抱きしめたくなる。が、他人になびいた女にちょっかいは出せないっていうことで。
「じゃぁ、今後、冬に言っておいてやるよ、来年は長く居座れってさ。雪と桜が見たいから、とか言っておく
「え?」
「俺は”季節”じゃなくて、”天気”だからさ。冬にけしかけて雪を降らすことくらいできる」
に、と歯を見せて笑ってやると、ハルもようやく笑った。
「ありがとうアメくん」
そう言って微笑んだ彼女はあまりに暖かで、花畑を撫でる風のようだった。
春の季節を終える頃、ハルは夏を待てずに慌ただしく去って行く。俺は嬉しそうに走り出すハルの背中を見送った。冬を追いかけていくのだろう。
俺が彼女に会うのは来年になる。
毎年、毎年、俺はこの季節に失恋をする。
何が悲しくって泣かないといけないのか。ただ、泣いて泣いて仕方が無かった。
急ぎすぎた春のポストを繋ぐように、俺は毎年泣いている。夏がやってくるその時まで。
四季とは春夏秋冬を指す言葉であり、ここに梅雨を含むことは無い。
最初のコメントを投稿しよう!