第2章 近くて遠いい

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自分なんていらないだろうと電車に飛び込もうとした時から、毎日大学への送り迎えをしてくれるようになった。食事も朝昼晩と、大学のある日はお弁当を毎日作ってくれ、食べないと注意される。夜は夕食までに帰らないと心配したと怒られる。 俺は子供か、と思いながら、満更でもない自分がいた。 そして、彼はとても綺麗な顔をしている。いつも甘えさせてくれる。こんな人とルームシェアをしていてなにも感じなかった自分を、アキは尊敬さえしていた。 それとも関係を続けるために我慢していたのだろうか。 湊が好きだ。いつでもアキを心配してくれて、過保護すぎるところもあるけれど、それも含めて好きになった。そして、こんなに好意の目を向けているのだから、彼もおそらく気づいていると思う。 それでもアキは、知っている。 彼は自分を抱きしめたり、場合によっては寂しいと泣きそうになりながらキスをねだるとキスをしてくれたりはする。しかしそこまでだ。絶対にそれは疚しい関係になる一線を超えない。超える前にうまくかわされてしまうのだ。 だからこの関係が壊れるのが怖くて、何も言わないでいる。 熱々のご飯に焼きたての塩鮭を乗せて海苔でくるんで食べると、パリッと海苔が舌で弾けたあと、ホカホカのご飯に混じってシャケの塩気、旨味が溶け出してくる。 続いて手をつけた野菜がたくさん入った豚汁はとても温かく、一口含むと凍える体に染み渡った。
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