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「何やってるんだ、そんな薄着で。」
湊だ。アキは彼を視界に捉えると、きてくれたことが嬉しくて何も考えずにいつものように駆け寄った。でも雪に足を取られて転んでしまう。
「スノーマン、作りたくて。」
セーターについた雪を手で払いながら湊の方を向いて答えると、湊は呆れたような顔をする。
「それでその山か。」
「うん。」
「とりあえずこれ付けとけ。」
湊に手袋を渡され、マフラーを首にぐるぐると巻かれる。
強烈な寒さで痛みが麻痺していただけで手は思いの外かじかんでいた。二本の指で手袋を掴むのさえ厳しくて、手袋を雪の上に落としてしまう。
「あー、こんなにして。」
見兼ねた様子の湊は、手袋を拾いポケットに入れると、自分の手袋を外しアキの手を優しく包み込む。
大きくて温かい。それと同時に胸が疼いて仕方がない。寒いときに顔が赤くなるのは嫌いだが、この時だけは寒さのせいでもう赤くなりきっていてくれ、と願う。
やがてアキの手が温まると湊の手は離れ、代わりに優しく手袋をはめられた。無防備に風にさらされていた手を、優しく羽毛が覆う。
中はもこもこ、外は合皮でできている。
名残惜しさと、鼓動の速さが少し落ち着いた安心感が拮抗して、アキはしばらくの間近くにできた中ぐらいの雪の山を見ながら固まった。
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