第6章 思い出旅行

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高速に入ってどのくらい経過しただろう。寝ているフリも楽じゃない。時々薄目で湊を見たり窓の外を見たりしているが、寝返りを打つ以外に動くこともできないのだ。そんな中アキは吐き気と戦っていた。 おかしい。最初の方は全く問題なかったのに。 胸焼けがして、それをなくすようにいくら深い呼吸を繰り返しても酷くなる一方だ。喉の下あたりから何か熱く、そして痛みを伴う刺激がこみ上げる。 さっきからずっとこれに耐えている。今少しでも口に何か入れようものなら胃の中の全てを吐き出してしまいそうだった。 自分の身体が傾いている。おそらくカーブの多い上り坂だ。湊が車の向きを変えるたびに苦しさが増す。 がたん。 何かの障害物に当たったのか、車が上下にわずかに振動した。 その途端、一気にこみ上げた吐き気に、思わずアキは寝ているふりをするのも忘れガバッと起きて口を抑える。額から冷や汗が出ているのがわかる。口を抑えていてもわずかに喉の先に胃液がはみ出していた。 吐くのをこらえようとするたび生理的な涙が頬を伝った。 「アキ?」 異変に気付いた湊が、ちょうどあった近くの駐車場に車を滑り込ませる。 車のロックが解除された途端にアキは外に出て嘔吐してしまった。 吐き終わると、湊が背中を優しくさすってくれる。その心地よさに少し、苦しみが和らいだ。 「飲めるか?」 差し出された経口補水液を受け取ると、ちびちびと口に含んでいく。 喉の奥を冷たいものが流れていく感触が心地よい。 吐き気が落ち着くと、湊がアキの両頬を軽く持ち、左右に引っ張った。 「酔ったら言えっていっただろ。次からは遠慮なく言ってくれ。」 「…ごめんなさい… 」 大きな手が気にするな、というようにアキの頭をポンポンと叩いた。大丈夫かと聞かれ頷くと、再びエンジン音が響いた。 「これ噛んどけ」 運転しながら渡されたのは、レモンライム味のガムだった。噛み始めると口の中がスッキリして、再び吐き気をもよおすことはなかった。
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