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先日降った雪は完全に溶け、温泉街のアスファルトは太陽の光を乱反射しきらめいている。どこか懐かしいその景色は、不思議と心を落ち着かせてくれた。
田舎特有の澄んだ空気を目一杯吸い込むと冷たくて、アキは身体中に行きわたる冷気に思わず身震いする。しかし何時間も車内の淀んだ空気に侵された体は、やっと入ってきた外の空気に喜んでいるようだった。スッキリとして心地いい。
「体調はどうだ?」
上から降ってくる湊の声と目線は優しい。
「大丈夫。」
そう答えると、湊は良かったと告げ、アキから目を離して遠くの景色を仰いだ。その瞳は懐かしげな色を浮かべている。初めて見る表情だ。
「チェックインまで時間があるから、一旦飯を食いに行くか。車戻れる?」
「うん。お腹すいた… 」
食事のことを思い出すと同時に自分がかなり空腹であることに気が付いた。そういえば朝食後ガムとポカリしか口にしないまま気づけば5時間以上たっている。
ぐぅーっと鳴ったアキの腹の音に、湊は笑いながらチューイングキャンディーを差し出す。
それを受け取ると再び車に乗り込む。
静かなエンジン音とともに、再び湊がアクセルを踏んだ。
口に入れたキャンディーは、甘酸っぱい味がする。
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