第2章 近くて遠いい

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メールの着信音が響き、目を覚まして確認すると、今日の講義全般を休みにするといった内容の大学からのメールだった。 携帯を見ようとして布団から出た手は、一瞬で氷のように冷たくなる。 窓の外を見ると、なるほど、大雪だ。 こんな雪の日だったのだろうか。アキは交通事故に巻き込まれ、家族を亡くした。その家族の遺体とは、結局警察にひどい状態だからと止められて、会うことはなかったらしい。 運転席側にスリップした車は、ガードレールを破りかなりの高さから落ちたそうだ。運転席に座っていた母がアキ衝撃を防ぐような格好になっており、奇跡的にアキは助かったらしい。 全て、人から聞いた話だ。 家族のことも、事故のことも、アキの脳内からは全て抜けてしまった。 ひどい話だ。1人それを忘れて生きていけるだなんて、卑怯極まりないとおもう。それに、何かもう1つ、重要なことを忘れている気がする。 どうして忘れてしまったのだろう。きっと自分の中には、大切な思い出がたくさん入っていたのだ。その中に、家族よりも大切なひとピースがあったはずなのだ。 朝起きると全て忘れている夢の中身と、なぜかぬれている自分の頬は、そのことに関係しているのだろうか。 寒さを布団をかぶって紛らわせながら、アキはふたたび目を閉じた。
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