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第1章 はじまりでおわりの。
「ねーえ、何で泣いてんの?」
どこか気怠げな声は、突然上から降ってきた。
雪で運転が見合わせになることは珍しくない。今日中に運転が再開することはなさそうだ、と小さくついたため息は、白い煙と共に憂鬱を吐き出す。
駅の待合室で一晩明かそうとしていた。慣れているが、参ったなと思う。駅員に声をかけて払い戻しをしようにも、そのあと周りのホテルが取れるとも思えない。
夜の雪は嫌いだ。湊はいつも、真っ暗な夜にしんしんと降る雪を見ていると、いずれ跡形もなく消えていく儚さに、自分の人生を重ねて泣いてしまう。
そして今も、彼の頬には温かい涙が伝っていた。
振り向いてみると、驚くほど整った顔の青年が、隣の席に座ってこちらを見ている。儚げな美人、と言ったところか。
「別に泣いてなんかない。」
そう断言したのは、ただの強がりだ。だいたい大の男が泣いているなんて言えたものではない。
「嘘つき。あんた、雪で止まると毎回ここで夜明かししてるだろ。それで、泣いてる。
深海湊せーんせ。」
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