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第5章 大学生活。
家を出て歩きと電車での1時間道のりを、湊は車で50分かけて送る。
機能性を重視した普通車には、クラシックが流れている。アキはこの何がいいのだろうといつも疑問に思う。せめてオルゴール風のポップスにしてくれればいいのに。
助手席から覗く、時折目を開けてその真剣な横顔に見惚れながら、大体の時間は目を瞑って寝るフリをする。湊から見ていることを気づかれないようにするためだ。
車を運転している湊は格好いい。横から見ると理想的な曲線を描く鼻筋がよく映える。真剣な眼差しでまっすぐに前を見ながら、時折信号待ちで眉間にしわを少しだけ寄せる姿も、綺麗だ。
「どうかしたか?」
ふと、湊と目があった。いつもより長く見惚れていたからかもしれない。じっとこちらを見ていて大丈夫かと前を見ると、信号が赤を示していた。
どうしよう。
アキはどんな言い訳をしようかと悩んだ挙句、結局何も言わず再び目を閉じてごまかした。
湊はそれを寝ぼけていたととったのか、正面に向き直りながら優しい手つきでアキの頭を撫でていく。
心地の良い優しい手。普段車の中では寝ることができないのに、その温もりに安心して、気づけば意識が遠のいた。
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