こどもひゃくとおばんの車

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                  *  保は幼い頃から人形が好きだった。それはヒーローや怪獣のフィギュアなどではなく、きらびやかなドレスを着たお姫様人形で、着せ替えの出来るものをより好んだ。  保の家は裕福ではなかったが、誕生日やクリスマスには両親からちゃんとプレゼントがもらえた。  男の子の保にはヒーローの塩ビ人形や走るミニカーなどで、妹にはレースの帽子や洋服を着た少女人形。  保はいつも妹が抱く少女人形を物欲しげな目で見ていた。 「早川君は男の子でしょ。そのお人形は女の子用よ」  毎年行われる子供会のクリスマスパーティーで用意されたプレゼントは女の子用と男の子用に分けられていた。  幼い頃、保はいつも間違ったふりをしていて女の子用の前に並び、役員のおばさんにそう注意されていた。  だが、小学生になる頃にはやめた。どうやっても女の子の人形は手に入らなかったからだ。  保は『心は女の子』として人形を欲しているわけではなく、性的な興味しか持っていなかった。  なので、自分の願いがかなわないことが深刻な悩みというほどではなかったが、欲求不満は溜まっていった。  その不満と両親や周りの大人たちから刷り込まれた性差の意識に反する罪を抱え、密かに欲求を満たすこともなく保は大人になっていった。
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