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空気が変わったことを感じ取り、俺も視線を半田へと戻した。
「何がだ?」
「俺が覚えてないだけで、実は一緒に働いてる人がもう一人いるってことにだよ」
そう言った半田は顔を俯かせて、もう既に飲み終わったであろう缶コーヒーを見詰めたまま固まってしまった。
その横顔は、顔も名前も思い出せない彼女の事を考えているのか、どこか思い詰めているように見えた。
半田にとっては、存在するかどうかすら怪しいはずなのに、それに対して真剣に悩む事が出来るのは素直に尊敬する。
少しして、半田はゆっくりと顔を上げてポツリと呟いた。
「思い出してやりたいな……」
「半田……」
続く言葉が出てこなくて、何と声を掛けようかと考えていると、半田は店の壁に預けていた背中を離した勢いで数歩前へと出て。
「雪人、俺に一つ考えがある。試してみないか?」
振り返らずにそう言った。
半田と店の裏口で話した後、俺は足早に家へと帰っていた。
思ったよりも話す時間が長くなってしまった。一応、自分の持っている鍵は渡してあるため、玄関前で待ちぼうけなんてことにはならないが、それとは別にもう一つ、俺には懸念することがあった。
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