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俺は家に着くと、走ってもいないのに何故か少し乱れている呼吸を整えて、中の人に気づかれないようにゆっくりと玄関のドアを開けた。
いつも通り靴を脱いで、廊下に上がったところで、話し声のようなものが耳に入ってきた。
その瞬間、ピタリと足の動きを止めた。
リビングの方から声が漏れている。どうやら、俺が懸念していた最悪の事態になっているようだ。
俺はそろりと忍び足でドアの前に近づくと、聞き耳を立てた。
『ほらこれ、ユキの小学生の頃の写真よ』
『わぁ、かわいいですね! 今のセンパイとは似ても似つかない……あ、ごめんなさい』
『良いのよ。あの子ひねくれてるし、目付きも悪いから……どこかで育て方を間違えたのかしら』
ドアの向こうでの、散々な言いように頬をひくつかせている間にも、会話は続いた。
『昔は優しくて良い子……だったかしら? 思い返すとそうでもなかった気がするわね』
『そんな! センパイ、素直じゃないだけで結構優しい……ですよね?』
「何で疑問系なんだよ……」
俺はツッコミを入れながら、リビングのドアを開けた。
リビングのソファには首を傾げた状態で固まる楓乃と、その隣には数日振りに見た母、相川玲子の姿があった。
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