第三章:記憶の重み

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 事実、俺から海へ行こうなんてワードが出るのはあり得ないため、あまり強く否定はできなかった。  楓乃は、それ以上この話題を掘り下げるつもりはないようで、話題を戻した。 「でもそれって、あたし誘われてないと思うんだけど」  言うと、少し寂しそうな顔をしてオレンジジュースをちびちびと飲み始めた。 「そりゃあ今の半田にはそんな気なかっただろうけど、もしこんなことになってなかったらきっと誘われてただろうなと思ってさ。一応誘ってみたんだ」  本当は半田自身が楓乃も誘うように言ったのだが、話がややこしくなるので今は伏せることにした。  数日前に半田と話したとき、最後に言った提案というのがこれなのだ。  忘れられてしまうのなら、忘れられないくらい楽しい記憶で一杯にしたら忘れられないんじゃないかというものだった。  何の根拠もない作戦で、例え上手く行ったとしても根本的な解決にはならない。けど、成功すれば大きな一歩になることには違いないのだ。  俺は残りのアイスコーヒーを全部飲み終えて、ゆっくりとコップをテーブルに置いた。 「行きたくないなら、別に良いけどな」 「え……」  なかなか答えない楓乃に意地悪く言うと、コップから口を離して、泣きそうな目でこっちを見た。     
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