第三章:記憶の重み

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「お、おい?」  ついに何て言葉を掛けたら良いのかも分からなくなり、周りからの刺すような視線を気にしていると、楓乃が唐突にがばっと顔を上げた。 「あはは、引っ掛かった」  さっきまでの寂しそうな表情はどこへやら、彼女はイタズラっぽく笑った。 「…………」  その様子に俺は黙り込む。  すると、楓乃が「センパイ?」と、様子のおかしい俺に不満げな瞳を向けてくる。俺はそれに答えるように思い切り開いた手のひらをゆっくりと持ち上げて、楓乃の方へと近付けていく。 「あ、あれ? セ、センパイ、この手は一体……ていうか、何で近づけてくるの!? セ、センパ――いたたたたたたたたたっ!?」  徐々に戸惑いの表情に変わっていく楓乃の顔を無言で鷲掴みにして、思い切り力を入れると片手で俺の腕を掴みながら、もう片方の手でバンバンと叩いてキブアップのサインを送ってくるが、気にせず更に力を加えた。  その後しばらくして、店員にお静かにお願いしますという旨をとてもいい笑顔で注意されたところで、俺は楓乃を解放した。  楓乃は涙目で両手で顔を覆うと、くぐもった声を出す。 「……女の子にアイアンクローだなんて、一体どういう神経してるの?」     
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