第三章:記憶の重み

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「俺がこんなことをするのは、お前だけだぜ」  照れたように俺が鼻の下を人差し指で擦る。 「なにそれ、すっごい嫌だ。あたしにも優しくしてよ!」 「厳しいのは、優しさの裏返し」 「絶対そんなこと思ってない! 普通にムカついたからやったんだ!」 「うん」  真顔でそう答えると「ばりむかぁ!」と意味の分からないことを言って口を尖らせた。  だが忘れてはいけない。元の原因が、楓乃の悪ふざけだったということを。  俺は、そっぽを向いてあからさまな機嫌悪いですよオーラを放つ楓乃を無視して「それで、海はどうすんの?」と気楽な感じで話し掛けたが。 「…………」  ツーンとしていて、なかなか話してくれない。しょうがないと息を吐いて、俺は手でスピーカーを作ると。 「なにその態度? ばりむか!」 「やめてよそれ!?」  似非博多弁で言うと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして楓乃は勢いよく立ち上がると、俺の頭をポカポカと殴ってきた。  これから無視されたら博多弁を使おうかと思い始めた所で、またも店員に良い笑顔で注意され、楓乃はしょんぼりと席に着いた。  俺はその様子に苦笑いしながら、横に立ててあったメニューを開いて見せた。 「取り敢えず何か頼めよ。奢ってやるから」 「……うん」     
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