第三章:記憶の重み

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 そんな、健全な学生らしい反応をする二人の雰囲気が他人の振りをしたいほどに眩しく見えたのはきっと、逆光のせいだ。 「楓乃さんの次は俺と焼きそばを賭けて勝負しような!」 「いや、それ勝負にならんだろ……」  半田は今までの体育の授業を見ている限りでは、運動全般をそつなくこなしていた。対して俺は、飛び抜けてできないわけではないが、別に得意というわけでもないため、半田には絶対に負ける。  実際、体力測定の持久走では「一緒に走ろうぜ」「おう」というやり取りをしたにも関わらず、半田はスタートダッシュから俺を置いてきぼりにしてしまうくらい俺には分が悪いのだ。  俺があからさまに渋った顔をしていると、痺れを切らした楓乃が俺の腕を掴んだ。 「良いから早く来る。折角の海なんだから、パラソルの下でくつろいでるだけなんて勿体ないよ」 「そうだぜ雪人。海の中に入ってしまえば、こんな暑さなんてどこ吹く風よ!」  交互にそんな事を言う二人の言葉に俺は折れるように。 「……わかったよ」  渋々頷いて、立ち上がった。  まあ、楓乃を誘ったのは俺だし、それに海なんて来る機会そうそうないんだから、遊ばないと損だよな。  そう、自分に言い聞かせた。     
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