第三章:記憶の重み

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 その視界の端。岩のアーチのところで目が止まった。その先は海水浴場ではないため、客が入っていくのは原則禁止になっている。事実、そのアーチには通行禁止の看板をかけられたロープが引っ張られている。  禁止の理由は表向きには監視員の目が届きにくいためとされているが、実は別の理由があると言われている。  その岩のアーチの向こうが、先日読んだ本に登場した死者と邂逅出来る砂浜であり、俺と楓乃が初めて出会った場所でもあるのだ。  気が付けば俺は、その岩のアーチの下まで来ていた。  そして何の躊躇もなくロープを乗り越えて、その先へと向かう。  岩のアーチを抜けると、一気に広いところへと出た。  右手には階段があり、左手にはどこまでも続きそうな水平線が広がっている。  そして、砂浜の中心には少女が一人、膝を抱えてうずくまっていた。  俺は忍び足をするでもなく、普通に近づいていき。 「探したぞ楓乃。ここで何してんだ?」  声を掛けた。  すると、楓乃はビクンと肩を震わせると、ゆっくりと顔を持ち上げた。 「センパイ……」  掠れた声で楓乃が言うと、俺はその隣に腰掛けた。  楓乃は特に嫌がることもなく、目の前の水平線へと視線を戻す。  それから少しの間沈黙して。 「……センパイ、この場所覚えてる?」 「そりゃあな。そうそう忘れられるもんじゃないだろ」 「そうだね」     
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