第三章:記憶の重み

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 そう言うと、楓乃は驚いたように目を丸くしてふっ、と表情を和らげた。 「センパイもそんな事言う時あるんだね」  言われて、途端に恥ずかしくなり、楓乃から目を逸らす。 「……忘れてくれ」 「やーだよ」  楓乃はイタズラっぽく笑うと、沈黙が降りるが、不思議と気まずくはなかった。  俺はふとどんな顔をしているのか気になって楓乃を見ると、穏やかな顔で海を眺めていた。  決して小さくない問題を抱えているとは思えない程に、その顔は穏やかだった。 「楓乃……」  気が付けば、楓乃の名前を呼んでいた。 「なに?」  特に喋ることを考えてなかったことに、俺は少しの間を開けて。 「夏休み……沢山遊ぼうな」  言ってから、自分は何を言っているのだろうかと思ったが、楓乃は少し驚いただけで、すぐに笑みを作った。 「うん!」  そう明るく返事をしながら立ち上がると、砂を払うようにパンパンとお尻を叩いてから腰に手を当てた。 「じゃあ、そろそろ戻ろっか。半田センパイも待ってるだろうし」  晴れやかな笑顔でこちらに手を伸ばす。 「そうだな」  伸ばされた手を取って立ち上がりながら思う。  絶対に、何とかする。  そんな頼りなくも、力強い言葉を胸に刻んだ。
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