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彼女の憂鬱、僕の靉靆
ご飯を食べていたら突然、彼女が嘔吐した。
なんてことのない普通の夜だった。付き合って三、四ヶ月程経った頃か、いつもの様に僕の家で、ゲームをして、録画していたドラマを見ながら晩飯を食べていただけだった。何か会話の流れに隆起があった訳でもなく、寧ろその日はお互い珍しく和気藹々とした雰囲気で過ごしていた筈だった。
だから彼女は嘔吐したのだと言ったけれど。
ゲェゲェと出前を取った弁当を、容器の中に吐き戻している彼女を僕は呆然と見つめていた。流石にどう反応すればいいのか咄嗟に分からなかったのだ。
一頻り吐き終えた彼女は、ごめんなさい、ごめんなさいと、それこそ壊れた蓄音機という比喩が相応しい様相で繰り返し呟いていた。
「自分が排泄することが耐えられないの。いつからかわからないけど、耐えられなくなって、ご飯が食べられなくなって、それでも人といたらなんとか食べられたんだけど、君といると、なんだか……すごく……安心して……安心しすぎて……今日は……特に安心しすぎて……」
嗚咽まじりにそう零した彼女は、悲壮感を湛えた涙で目を赤く腫らしていた。
僕はその時、彼女の病的に細い体と小学生程しかない体重の理由を初めて知った。
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