晴れ渡る空の様に清々しい

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スマホを放り出してソファで深く息を吐きながら背を伸ばしていると、猫がベランダを見つめていることに気付いた。 ベランダからカーテンの隙間をついて細い一筋の朝日が射し込み、一本の線を描いている。その近辺を猫が見つめている。 僕は放り出した自分のスマホを手に取って、写メを起動した。 撮った写真は、カーテン付近、特に朝日の射し込む隙間付近が歪にブレていた。 彼女が朝日を眺めているのだ。 僕の部屋はマンションの二階で、特段見渡しが良いという訳でもないし、周囲の高層ビルが遮蔽物となって完全な暁天を拝める立地ではない。 それでも彼女は、空を見ているのだ。 白く、明けて行く空を。 生前彼女は空を見るのが好きだと言っていた。自分の目で見る事は殆どないけれど、SNSにアップされた朝焼けを美しいと感じるのだと。 朝の空気も地肌で感じる訳でもなく、他人がネット上にあげたデジタルな空の景色で満足してしまう彼女の感性が、僕には理解出来なかった。 それでも夜から朝に移り変わりゆく空が好きだと言っていた。美しいと感じると。 今の彼女は、SNSでそれらを見る事も叶わない。だから、自分の目で見ているのだろう。 死んでから生前果たせなかった、余り果たす気もなかった事をしている彼女を滑稽に思ったが、特に言葉をかけることもなく暫く放っておいた。     
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